北極圏デザイン小委員会
2015年2月に、フィンランド・ロヴァニエミ市が事務局となって「北極圏デザイン小委員会」が新設されました。デザインを通した問題の解決と、新たな機会の創出を目標としており、問題を定義して数値化し、解決策を検討・テストして、将来的に適用するアプローチをとります。長春、エドモントン、ハルビン、華川郡、ノボシビルスク、ロヴァニエミ、札幌市が参加しています。
第1回会議(2016年7月29日)
第二回会議(2018年1月25日)
第三回会議(2018年9月13日)
第四回会議(2019年11月15日)
活動計画
2015年実務者会議の開催に併せ、「北極圏デザイン小委員会」の事務局都市であるロヴァニエミ市から以下のとおり、今後の活動計画について発表が行われました。
ロヴァニエミは北極圏に位置しており、北極圏で5番目に大きい都市です。年間6~7か月は雪が降り、12~1月はほとんど太陽が昇らない一方で、6~7月は一日中陽が落ちることがない街です。
一般的にデザインとは「単にどう見えるか、どう感じるかではなく、どうすればうまく行くか」が肝心であるとされており、北極圏デザインについても「どうすればうまく行くか」がより重要になります。
北極圏デザインの重要事例として、冬の都市計画の策定方法、冬の都市におけるビジネス方法があげられます。
ロヴァニエミにおける冬の都市計画として、市中心部にほど近いケミ川での夏と冬のアクティビティエリアの建設計画があげられ、2014年には寒中水泳世界大会を行いました。さらに市中心部のスポーツアリーナは夏冬兼用で、夏は主にサッカー、冬はスキー、スケート等が楽しめます。またロヴァニエミでは自転車道が整備され、道路同様に除雪されます。さらに1,000kmに及ぶスノーモービルルートも用意されています。
ロヴァニエミの観光系企業のビジネスモデルにおいては、多彩なデザインが取り入れられています。ロヴァニエミの観光ビジネスにおいて最も重要なのは、クリスマス時期とサンタクロースです。サンタクロースのイメージ、物語等はデザインの一部分です。また雪や氷も観光ビジネスの重要な要素で、アイスホテルやアイスバーといった建築物や内装に北極圏デザインが活用されています。
ロヴァニエミでは2月に「北極圏デザインウィーク」を開催しています。ロヴァニエミ産の木造住宅は、ラップランドの伝統と近代のデザインが融合したとても興味深いものです。サーミ文化においてトナカイは最も重要で、トナカイ製品はロヴァニエミの主要な輸出アイテムです。また寒冷地おける、自動車等の性能テストも重要なビジネスモデルの一つです。さらに映画の撮影地としてもラップランドの自然は魅力的で、撮影に際しては地元企業によるサポートも行われています。
北極圏デザイン小委員会の目的は、世界冬の都市市長会の会員都市のノウハウと経験を活かしながら、解題解決に北極圏デザインを活用することです。今後はロヴァニエミから会員都市へアンケート調査を行い、とりまとめを行います。その後会員都市が解決したい課題と発展させたい分野を選択し、次回会議までにバーチャルワークショップを活用して委員会活動を実施していきます。
発表資料 英語版
第1回会議
北極圏デザイン小委員会では、北極圏のデザインを切り口とした課題解決を試みるため、事前にアンケートを実施し、事務局を務めるロヴァニエミ市の建築士タルヤ・オウティラ氏が、各都市の取組事例について報告しました。
テーマ1:都市計画
・ 長春は2014年以降、市営公園・庭園の建設と維持管理に20億元を投資。現在、108の公園と庭園が市民に開放され、人気のスポットとなり、街のイメージアップにつながっている。
・ エドモントンのビクトリアパークパビリオンは、アウトドア活動、コミュニティやスポーツ団体が使用するスペース。エドモントンは、ウインターデザイン・ガイドラインが、まだ承認されていないものの、道路、公園など公共部門で用いられており、防風対策、それから色彩感覚、デザインなどのインフラ整備に使われている。
・ 華川郡のSEONDEUNGストリートでは、「氷の国 華川やまめヤマメ祭り」の期間中、LED照明によるイルミネーションを設置している。
・ (ノボシビルスクにある)380mのアーチのバグリンスキー橋は、巨大な赤い弓のようなデザイン。ノボシビルスクの幼稚園は、FIABCI世界大会で2011年にロシア最優秀幼稚園賞を受賞。またノボシビルスク天文物理学センターは、2015年にロシア建設省主催の第1回都市計画コンテストで、ロシア最優秀社会資産建設プロジェクトとして表彰されている。ザリア屋内サッカーアリーナは、シベリア最大の屋内サッカー複合施設で、夏季は屋外ゲーム用に人工芝のサッカー場が5つある。
・ 札幌のモエレ沼公園は、札幌の市街地を公園や緑地で囲む「環状グリーンベルト構想」に基づき設計されたもので、冬にはクロスカントリースキー、モエレ山でのそり滑りやスキーができ、冬のスポーツを楽しむ場となっている。
・ ロヴァニエミの多目的スポーツ場は冬にはスケート場、スキーコース、フェスティバル会場として、夏にはサッカー競技場、フェスティバル会場として使用されており、2016年にはArchitizerのA+Popular Choice賞を受賞。ロヴァニエミ市に本社があるLappset社はプレイランド施設や遊具の設計に、色やデザインなど遊びを楽しくする製品づくりを行っている。市は、地域基本計画に都市ゾーニング指針を導入。環境保護を推進し、増える市街地への住民流入を可能にすることを目的に調査し、計画策定を進めている。
テーマ2:冬季条件によるデザインと専門知識
・ エドモントンは、昨年ビクトリアパークの森林の中の400mのスケート・トレイル「ザ・フリーズウェイ」を開催。このトレイルはスケート競技場へとつながり、アーティストのデザインした光のインスタレーションがトレイルを照らし、幻想的な雰囲気を作り出している。
・ 華川郡は、化石燃料よりも持続可能なエネルギーシステムを利用することにより、冬季の大気汚染やエネルギー使用のレベルの低下を期待している。ロヴァニエミは道路スキャナーを採用してインフラを完全に画像化するソフトウエア、ハードウエアを使用。また、北極圏のドライビングセンターでは、技術支援の提供を行い、国内及び国外の情報拠点である北極圏センターは、主に3つのテーマで研究が行われている(環境及びマイノリティ法のための北部機関、持続可能な発展研究)。
テーマ3:日常生活と観光に関するデザイン
・ 長春市は、スポーツやエクササイズに参加することを市民に奨励する計画とデザインを整備している。長春市はバーサーロペット国際クロスカントリースキーフェスティバルを開催しており、冬の都市の日常生活や観光に影響を与える地方自治体によるデザインとなっている。
・ エドモントンのアイスキャッスルは氷と雪のみで造られている。内部を歩いて見て回ることができ、幻想的な冬の体験を提供している。
・ 華川郡では、フェスティバルの期間中に地元生産物販売への協力体制を整備。
・ ノボシビルスクのフラミンゴ複合競技場では市民を対象とした各種スポーツイベントを開催。暖かい冬のツアーも実施している。
・ ロヴァニエミは、毎年2月に「北極圏デザインウィーク」を実施。世界中のデザインの専門家、北欧のデザイナー、その他企業学生、デザイン愛好家達が集まり、雪で作られた北極圏スノーホテルで一夜を過ごすことができる。
テーマ4:解決すべき問題
・ 長春の課題は、人口の増加、そして廃棄物の適切処理、エネルギーや資源の賢い利用法、交通渋滞など。
・ エドモントンは、冬をデザインすることの意味と適切な活用が課題で、冬の道路の活気を高めることを重視する方向に移行している。
・ 華川郡は渋滞を緩和し、訪問者を市街地エリアに誘い込む方策として、祭りエリアと市街地エリア間にハート型トンネルを作って訪問客を誘導する解決策の提案があった。
・ 札幌からは、都市の魅力と活気を促進することと、人口統計や年齢分布の推移によるニーズに対応するため、適切な維持管理と保存の必要性という2つの課題が挙げられた。
発表資料 英語版
第2回会議
事務局を務めるロヴァニエミ市のタウラ・オウティラ氏より、2017年の冬に行ったアンケートの結果が報告され、都市設計に影響のある課題や問題、イノベーションを制限する冬期の課題や問題等について発表された他、小委員会参加都市である札幌、長春、エドモントンによるラウンドテーブルディスカッション等が行われました。
発表資料 英語版
第3回会議
フィンランド・ロヴァニエミ市の事務局で長年担当を務めてきたタルヤ・オウティラ氏がその研究を深めるため市役所を退職しオウル大学に転職したため、後任者が着任するまでの間、一旦活動を休止することが発表されました。今後の展開の方向性として、自治体だけではなく、大学等の高等教育機関や研究機関、企業等も巻き込みながら取り組みを進めていきたいという考えが示されました。
第4回会議
ロヴァニエミ市アドバイザーのユハ・トゥイスク氏より北極圏小委員会の振り返りと今後の活動について:
・ ロヴァニエミ市は、より積極的に市長会の活動に参加したいと思い小委員会を立ち上げた。まずはアンケートを取り、各都市の政策や課題の状況を把握するところから始めたが、小委員会の進め方などについて、最初に皆で議論できる機会があればよかったと思う。これをきっかけに、将来的な委員会の活動方法について検討が進むことを希望する。
・ 小委員会の大きな目的は情報交換と協力であり、情報・意見交換の最適な方法を模索している。例えば、オンラインプラットフォームを構築できれば、情報交換が楽になると考えられ、また、ロヴァニエミ会議でも活用することができる。
・ 結果を踏まえて新しい小委員会を立ち上げるのか、現行の小委員会を継続運営していくのか等、最終年を終えた後のことも考えていきたい。
参加都市や世界冬の都市市長会事務局からの意見:
・ 互いに質問や提案ができるようなプラットフォームを構築する必要があると考える。小委員会に限らず、すべての会員都市が24時間いつでもアクセスできるオンラインプラットフォームが理想的。
・ 新たに立ち上げた世界冬の都市市長会議のホームページで採用しているシステムは比較的機能拡張が容易なものを採用しているため、技術的にはそうした機能の追加の検討も可能と考える。アクセス権については、アンケート参加都市の権限で有識者や近隣自治体にも回答を求めるなど、一定の制限も必要かもしれない。また、小委員会の活性化に向けては、ロヴァニエミから指摘のあった今回の小委員会の反省を踏まえて、設置・進行初期段階のガイダンス等について検討し、会員都市の意見をうかがいたい。
発表資料 英語版