自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会
2008年1月にグリーンランドのヌーク市で開催された第13回世界冬の都市市長会議において、自治体の環境保全活動に関する事例を調査するための小委員会「自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会」を設置することが決議されました。
この小委員会では、第13回世界冬の都市市長会議で採択された『ヌーク宣言』に基づき、各都市が持つ環境問題に関する情報や経験を互いに共有することで、より良い冬のまちづくりを進めていくことを目指します。(2012年1月活動終了)
第1回会議(2008年8月21日)
第2回会議(2009年8月20日)
中間報告(2010年1月21日)
第3回会議(2010年7月9日)
最終報告(2012年1月13日)
第1回会議
自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会」の第1回会議を、2008年実務者会議の開催にあわせ、カナダのプリンス・ジョージ市にて開催いたしました。会議には9ヶ国12都市の参加があり、同小委員会設立の経緯が説明されたほか、会員都市からの事例発表等が行われました。
議事概要
最初に、事務局のアンカレッジ市より、同市が全米市長気候保護協定にアラスカ州で最初に署名したことなどを紹介しつつ環境問題を重視しているとの発表がありました。次に同市が実施したアンケート結果の報告及びアンカレッジ市の具体的な取組みについて紹介がありました。また、最終的には、会員都市による協定又は憲章の作成を目指すとの方針が示されました。
その後、トロムソ市から発表があり、退氷や海面上昇等が見られることの報告があるとともに、ごみの光学選別システムの導入や生体分解性の残留廃棄物をエネルギーに再生する工場等が紹介されました。また、2020年までに1990年レベルの排気量を半減させる等のアクションプランを作成したとの報告がありました。
アンカレッジ市の事例発表を行うディヴィッド・ラムサール氏(右)とディック・スタローン氏(左)
トロムソ市の事例発表を行うエイリン・ロードセト氏
アンカレッジ市による調査結果
全ての会員都市とその会員都市市民が、地球温暖化を重要な問題であると認識している。
地球温暖化の影響は多岐にわたり、気温上昇や、河川でのアイスジャムの発生、雪不足や干ばつのような季節的変化、高木限界の上昇、疫病の増加、氷河の後退、そして野生生物への影響などが見られる。
世界冬の都市市長会の会員都市は、地球温暖化の影響を減らすために積極的に活動しており、エネルギー効率の高い都市交通の拡大、新しい照明の設置、リサイクルの推進、ビニール袋の使用禁止、市民に対して自転車利用の奨励、風力エネルギーのような代替エネルギーの利用促進等に取組んでいます。
発表原稿
アメリカ・アンカレッジ市 英語版(1) 英語版(2) 英語版(3)
配布資料 英語版
ノルウェー・トロムソ市 英語版
第2回会議
「自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会」の第2回会議を、2009年実務者会議の開催にあわせ、ノルウェーのトロムソ市にて開催いたしました。会議には6ヶ国9都市の参加があり、同小委員会の事務局を担うアンカレッジ市より屋外灯へのLEDの活用事例についての発表が行われました。
アンカレッジ市による発表内容
アンカレッジ市内には16,000の街路灯、1,500の山道灯、そして何百ものバス停照明や歩行者用信号などがあります。LED技術はエネルギー消費を半分に削減できる可能性を秘めています。これを詳しく調査するため、当市ではLEDを活用した街路灯を4,000本設置し、その効果に関していくつかのレベルでの実地試験を行いました。地元住民の評価では、従来のHPS技術(オレンジ色の高圧ナトリウム灯)よりも圧倒的に新しく設置した白色光の街路灯が高く支持されました。
・ 4700ケルビンの白色光は自然な月の光と調和し、最適であることが分かった。人にも優しく、夜行性動物の妨げにもならない。
・ 街路灯の規格は夜の空に向かって光が放たれない光害フリー保証のものとした。また、住宅への光の侵入を回避するため、住宅側にシールドが付いているものとした。
・ 白色光は実際の色を認識することができ、コントラストがはっきりしているため暗闇ではっきりとした視野を確保することができるという試験参加者の感想を得た。また、自動車と歩行者の双方に対し、従来よりも安全な状況をつくり出している。
LEDの寿命は従来のHPSランプより7倍以上長い15~17年で、これにより保守費用を大幅に削減することができます。省エネ効果のみで、投資費用の元を6~7年で取れる計算です。第一段階は実施後9ヶ月になりますが、節電目標を達成し、予想を上回る成果が期待できそうです。また、住民からも大変好評を得ています。
発表を行うアンカレッジ市のディック・スタローン氏
従来の高圧ナトリウム灯の様子
LED灯の導入試験の様子
発表原稿
アンカレッジ市 英語版
中間報告
「自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会」の中間報告を、2010年マールドゥ市長会議の開催に併せて行いました。会議には11ヶ国18都市の参加があり、同小委員会の事務局を担うアンカレッジ市より屋外灯への再生可能エネルギーに関する取組事例等の発表が行われました。
アンカレッジ市による発表内容
2008年に設立された「自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会」より、さらに2年間活動を継続するとしたうえで、中間報告がありました。アンカレッジ市における様々な再生可能エネルギー(風力、地熱、地下での石炭のガス化、水力、潮力)への取組事例が紹介されたほか、建物に関する環境性評価基準(LEED)の認証を受けた建物が増えてきていること、LED照明事業を積極的に推進していることが紹介されました。今後は、エネルギー問題やヌーク宣言にある気候変動に関する目標の達成方策について重点的に取り組み、各都市の事例を最終報告に盛り込んでいきたいとしたほか、ホームレス、アルコール依存及び薬物依存への対策事例の調査にも興味を持っているとの提案がありました。
ディック・スタローン氏(アンカレッジ市)
ジョージ・カネロス氏(アンカレッジ市)
発表原稿
第3回会議
「自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会」の第3回会議を、2010年実務者会議の開催に併せ、モンゴルのウランバートル市にて開催いたしました。会議には6ヶ国9都市の参加があり、同小委員会の事務局を担うアンカレッジ市より以下の発表が行われました。
アンカレッジ市による発表内容
都市が確実に機能するためには、地方や国の行政による優れたリーダーシップが必要であり、アラスカ州は最近、意欲的な目標を掲げ、2つの重要なエネルギー法案を可決しました。
・ 2020年までに一人あたりの電力消費量を15%減少させる。
・ 2025年までに電力の50%を再生可能なエネルギーから発電させる。
この2つの法令によって2億5千万ドルがアラスカ州内の公共建築物の改修に充当されます。さらに、同州は新興技術エネルギーの開発に補助金を交付し、代替エネルギー事業を推進している電力生産者に対して税制上の優遇措置を適用しております。
都市が取り得るあらゆる対策のうちで、最も重要で容易なものはエネルギー効率に関することです。例えば、米国においては、建造物は総エネルギーの40%を消費し、温室効果ガスの38%を排出しています。また同国においては、全コンピューターの60%が、一晩中電源が入ったままとなっております。特にアラスカ州は、エネルギー効率の高い建物の普及度という点において、全米で最も好ましくない州に位置づけられております。しかしながら、アンカレッジ学区(通学区域の名称)は優れたエネルギー効率事業を実施しております。
小委員会では、同市が大気汚染の改善にどのように取り組んでいるかについて発表がありました。同市では、市民の健康に直接影響を与える、一酸化炭素、粒子状物質、PM-10(埃など)、PM-2.5(煙など)、鉛、ベンゼンなどの排出量を監視しています。
他の多くの都市が行っているように、同市の大気汚染の最新状況をインターネット上でも閲覧できるようになりました。
発表原稿
最終報告
ウランバートル市で開催された第15回世界冬の都市市長会において、アンカレッジ市のディック・スタローン氏及びジョージ・カネロス氏は、「自治体の諸活動における環境保全活動調査小委員会」の最終報告を行いました。
本小委員会は、2008年にヌーク市で開催された第13回市長会で設立されました。会員都市を対象とした調査により、各都市における事情は異なりますが、それぞれ市政運営や財政、政策、事業の面で気候変動の影響を受けていることが分かりました。例を挙げると、アンカレッジ市では、都市部での森林火災の危険性が高まっていることが懸念され、また、長春市、ハルビン市、華川郡からは異常な干ばつやモンスーンによる農業被害があること、ジャムス市と太白市では、よりクリーンで効率的な冷暖房が必要となっていること、トロムソ市では異常な気温上昇による林業・漁業への影響等があるとの結果が得られています。
また、同調査の「気候変動の影響を軽減するために実施した新たな施策」についての設問には、11都市中10都市がリサイクルの推進とエネルギー効率の高い照明や設備の導入を挙げました。8都市がエネルギー利用節減への対策、7都市が再生可能エネルギーの模索を行っていました。エネルギー効率の高い自動車の購入が6都市、市職員の公共交通機関利用に対しインセンティブを与えている都市が4都市ありました。さらに、空前のスピードで生じている都市部への人口移動の影響は全会員都市に及んでいました。ウランバートル市を例に挙げると、1950年の同市の人口は国の人口の20%でしたが、2010年までに60%へと上昇しており、国連の予測によれば、2050年までに80%が都市住民になるとされています。
小委員会の最終報告
アンカレッジ市のディック・スタローン氏(右)とジョージ・カネロス氏(左)
アンカレッジのダン・サリバン市長は気候変動、人口の変化、予算の削減から生じる同様の課題に対し、寒冷地の土地利用計画、持続可能な建築デザイン、再生可能エネルギー事業、水供給、大気環境、そしてLED照明に重点を置くことにより取り組んでいます。
同小委員会の最終報告では、アンカレッジのエネルギー保全、エネルギー効率、電力の有効利用に焦点を絞りました。エネルギーの賢明な利用は都市がその持続可能性を高め、気候変動に備えるために取りうる最も重要なステップです。例えば、アンカレッジの主要電力事業会社2社は、既存の発電所に比べて燃料効率が25%向上することが見込まれる新規共同発電所事業にあわせて約3億7000万ドルを投資しています。また、この2社は2012年中に供給開始を予定しているアンカレッジ初の風力発電所にも投資しています。この電力事業会社はエネルギー効率と保全を重視しており、市民への啓蒙プログラムにより、同社の電力供給会員の84%が「電気を消す」、「より効率の高い電球を使う」、「電気機器の使用を控える」、「家の断熱性能を高める」という省エネ行動を取るようになっています。
また、アンカレッジのLED照明事業は目覚ましい効果を上げています。第一段階として、住宅地の街路灯と低速集光灯(コレクターライト)の入れ替えを95%完了しました。従来の高圧ナトリウム灯との比較における実際の省エネ効果は素晴らしく、59%の削減となっています。資本回収期間も短くなり、ドライバーや歩行者からも高い評価を得ています。
これらの取り組みから得られた大きな成果の一つは、過去10年間におけるアラスカ州の都市部住民世帯で使用された電力の平均キロワット時の大幅な節減です。これは大きな達成であり、消費者にとっては節約となり、温室効果ガスは削減され、エネルギー資源の保全が向上しました。
同小委員会の結論は次のとおりです。
・ 気候変動は世界冬の都市市長会会員都市にとって共通の大きな関心事である。
・ 各都市は気候変動という課題に対し、方法は異なるがそれぞれが優れた戦略により対処している。
・ 都市部への人口流入が都市にさらなる負荷を与えている。
・ 我々の見解ではあるが、都市は持続可能な発展に絶好のチャンスを生むことができる。
・ 最も重要ことは、都市間で今後も教訓を共有し、共に取り組んでいくことである。
最後に、スタローン氏とカネロス氏は、小委員会で得られた知見が会員都市の持続可能な発展の一助となることを希望している旨を述べ、小委員会の活動を締めくくりました。